小屋暮らしのハルさん②

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よくもこんな時期に来たもんだ。

呆れた顔を露骨にみせた小屋の家主は、さ、早く入りなと、僕を手招きしてくれた。色んな木々がミルフィーユの様に折り重なった山小屋だった。

よくみると木材だけでなく岩も使われている。家主の性格だろうか、小屋のなかはこ綺麗にされ整頓されていた。入り口を入ると広いリビングダイニングだろうか、暖炉があるが夏なので活躍している雰囲気ではなかった。暖炉の周りはどうやって運んだか、びっくりする位の岩が使われていた。暖炉から半径1メートルほどは岩がはられていて安全性がはかられている様だった。

リビングダイニング、勝手にそう思うが、四人がけのテーブルが2つ、椅子が4つ並べてあった。ふだんは8人がけなのだろう。暖炉のよこには別に椅子が4つ積まれていた。

部屋のなかは薄暗かったが、パチンというおとと共に部屋は少し明るくなった。

こんな場所にも電気がきているのかと、ジロジロみていると、家主がやってきて、

「はは、電気、びっくりでしょ?
電気はね、ここから沢に下りた場所に水力で発電してるんだよ。あとね屋根もソーラーパネルがあるんだ。大抵はびっくりするよ。こんな場所にってね。」

僕がこの小屋を見つけたのはネット上だった。はじめは、こんな場所に小屋なんてと思っていたが、道すがら横を通過する予定だったので、小屋があるのかないのか確かめに来たのだ。

向かう山道から少しそれ、1キロほど歩いた場所にある。

山道の1キロは平地と違い体力を食う。僕の好奇心は、その体力の消耗を代償にしても小屋を確認することを欲していたようだ。

主な山道から小屋までの道は、綺麗に整理されていて、道入り口には小さく「小屋はこちら」とかかれた看板がかかげられているのだった。
ネットでみたこの小屋に関する情報は、山好きの誰かがブログに書いたものだと思っていたが、よく考えてみると毎日山の中の話しばかりのブログだった。まさか家主がかいているねか?とは思ったが、こんな山奥からネットにアクセスする手段なんてない。衛星電話ぐらいだろう。わざわざこんな山奥に住みながらネットをするなんてないだろう。
その考えは、その後見事に裏切れることになる。
「家主さん、ここに住んで長いんですか?」

目の前で、旨いコーヒーと書かれた使い古されたカップに、ポタリポタリとコーヒーを落としている家主に話かこた。

「ハルでいいよ」

「ハルさんですか?」

ニヤニヤしながら家主はつづけて

「本名じゃないけどね、ここにくる奴らはみんなそう呼んでるよ。」

旨いコーヒーを真剣な顔をしながらつくり、棚から無骨なクッキーを一握り紙の上に並べてくれた。

「食いなよ、見た目以上の味は保証するよ。」

コーヒーを一口含むとびっくりした。今までに飲んだ事がないぐらい鮮烈な、でも優しい余韻のコーヒーだった。

「旨いコーヒーだからね」

そう一言いって、まき割の途中だったから片付けに小屋を出て行った。

小屋のなかは窓を閉め切っていたせいもあってコーヒーの香りが充満していた。

コーヒーはストレートじゃなくブレンドだということはわかった。後味にマンデリンの優しいかおりが残る。僕ごのみの深くぽったりしたコーヒーだ。

クッキーも意外な旨さだった。どうやらクッキーの中身が香ばしいのは生地の半分はピーナッツを粉にしているからの様だったった。

食べ過ぎたら鼻血だな、と。

ドン、ゴンと小屋の壁が音をたてている。降り出したスコールも上がり、柔らかい光が雲間からさしていた。

 

 

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この山を登ろうと決めたのには理由があった。

「山に居る。」と言うサイトをネットで見かけたからだ。

山の中で暮らす人がアップしているサイトは有名だが、何処の誰が何処からアップしているのかについては詳細はわからなかった。

あえて解らなくしている、知らなくてもいい仕様になっているようだった。

初めてサイトの存在を知ってから、二カ月ぐらいしてからだ。毎日のようにブログは更新されていて見てはいた。その日のブログの頭に、でかい岩の写真がアップされていた。流してしまいそうなただの岩なのだが、背中の辺りがこそばゆい感じがして再び岩の写真をみた。

その岩の写真に見覚えがあった。

人の背丈ほどある岩は何処から湧いてきたのか解らない。周りに岩場らしきものもなく、転がり落ちてきたにしては場所が不自然なのだ。湧いて浮き上がってくるか、引っぱってこなければこの場所にはあり得ない。

2キロ先に小川があるが岩が流れるような場所でもない。例え増水したにしろ、2キロも離れた場所に岩を運ぶ水量になるとはないだろう。

印象に残る不思議な岩だ。

その岩が、オタケさんの岩と立派な名前がキャプションがついて掲載されていた。名前の由来についても書かれてある。

オタケさんが気に入った岩だからとの事だ。

思わず吹いた。

どうやらこのブログの持ち主は、アノ山の、しかもかなり近くに住んで居るのだとわかった。

登る理由になったのはそういうわけだ。

 

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ブログの主が住む場所は運良く登山口でわかった。登山口の大分前だが、食料品店があり、そこに例のオタケさんが住んでいたのだ。

小竹食料品店。

登山に向かう際買い出しを忘れ、買い出しできそうな場所を探して見つけた、集落にひとつの食料品店だ。

はじめ、オタケさんの店とわからなかったが、店に入って、声をかけた店員がお客だったようで、「小竹さん客さんだえ」となまりのかままりで店主をよんだのだ。

店の奥から黒い塊が、ノソノソ這い出すような動きで出てきた。

「なんだげ、何が居る?」

なまりか、歳のせいか、そのおばあはの声は聞き取りにくかった。

「あ、あ、すみません、少し伺いたいことがありまして、あの、山に自分でたてた小屋に住んでる人しってますか?」

「あ、あ、ハルけんか?」

「ハルけん?」

「ハ、ハ、ハ」と周囲の家に丸聞こえになる位デカイ笑い声で

「おめえ、ハルの知り合いか?あいつになんか知り合いおったかー、ハ、ハ、ハ。」

「いや、知り合いではないんですが、」

と少し話しをした。さすがにインターネットの話はチンプンカンプンのようだったが、スマホからサイトの写真をみて、話しを呑みこめたようだった。

サイトの運営している人はハルと言うようだ。
あんなやまの中に住むくらいだ、変わった人物に違いないだろうと思っていたが、おばあから聞くハルの人物像は思っていた姿とはかけ離れていた。

まず、どこぞの学校の先生だったこと。山には一人で住み、登山客を小屋に泊め生業にしている。

名前?はハルと言う。
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山を歩きながら少し後悔した。オタケ婆さんから頼まれたハルさん渡しの荷物。調味料と言っていたので軽いものを想像していたら、1キロほどあり、長時間山をあるく今日の登山には少しウェイトがある荷物になった。

自分の性格で、安全対策にも二重にしているから、自然と荷物も増えてしまう。かつ、今日は昼過ぎから天候が崩れそうだたので雨具関係を増強してきたのだ。

既に一時間ちかく歩いているので引き返すわけもなく、安請け合いするんじゃなかったと、頭のなかを雑念がゆっくり回っている。

この道を通るのは二回目だが緩やかなアップダウンは、はじめと終わりだけ。目的中間はかなりか過酷な足場が続く。

山の影が隣の山にかかってきた。空を仰ぐとゆりやかに雲が増えてきた。青空は徐々にすがたを白くして、10分もしないあいだに見えなくなってしまった。

徐々にくもは灰色がかり最後には鉛いろに。数分と持たずに、たるをひっくり返した様な雨がやってきた。
何処かで雨宿りと思ったが、オタケ婆さんが言ったハルさんの小屋への看板がみえてきた。そこからは2キロもないとの話しだったし、リュックには着替えもあったので、雨具を着て歩きつづけることにした。

看板から入った細い道は、看板が無ければ道があるとはわからない雰囲気で、どちらかといえば獣道に近い。

ところ何処に獣のフンを確認したが、土砂降りのなかでは、どの獣のものか見分けるの気にもならなかった。
雨具の中に染み込んでくる雨が徐々に体力を奪いはじめていた。2、3のアップダウンを繰り返し、一気に下る。雨音も気にならないくらい静かな時間。樹々が動かぬ巨人のようで存在だけで威圧してくるが、嫌な感じはしない。むしろ心地よい威圧だ。
光が広がる場所がみえてきた。小川がみえた。

疲れていたがさわから水をひくための塩ビパイプがみえた。

ひとり近いな。と頷く。

一気に下り、後は山沿いを緩やかにカーブした道をゆくと、さらに光が増し開けた場所に出た。

雨は上がルコとなく、さらに雨脚は増していた。

ザーッという雨おとのなか、カッーン、カッーンと撒きを割る音が開けた場所にひびいた。音のする方に目をやると、山裾に小屋らしきものが見え。家主だろうか?軒先きで撒きわりをしているようだった。

雨脚は酷かったが、足音が分かったのか、家主は、こちらをふりむいた。

話かけるのをためらいそうな風貌だが、
「あの、オタケさんから預かりものがありまして。」

オタケという言葉をきいて、怪訝そうな顔をしていた家主の顔が緩んだ。

「まあ、なかに」と家主は小屋の入り口を指差した。
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小屋にきた経緯を一通り話し終えるころには、そとは明るくなっていたが、ずぶ濡れのリュックを見て、ハルさんは、

「今日はここでリバースしたらいい、どうせ、そのなりじゃ体調くずだけだよ。ま、なんだ、オタケさんの件もあるし、飯も泊まりもサービスさ。」

ニヤニヤしながら、かべに掛けられた鍵をひとつとってテーブルにおいた。

「今日は、だれも来ないしゆっくりするといいよ。部屋はあっちね。トイレはそこ。」

ぶっきら棒に話すと、あたまをかきながら。また薪割りに小屋をでた。

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